アナタ専属
2
副社長の提案で、光一さんと住んでる自宅にお邪魔する事になった。沢木君は副社長から直々にいろいろ教われるから、かなり期待出来るかも。これまで副社長が直接秘書を教えた事はなかった。つまり副社長から見て、沢木君は期待されてるって事。
みっちり二時間、基礎から叩き込まれた沢木君は、何だかげっそりして見えたけど、収穫はあったみたい。
「じゃあ、失礼します。東雲さん、送りましょうか?」
「沢木君、初音はうちに泊まるから心配いらないよ」
「しゃ…社長のお宅にですか?」
「大学時代はゼミが一緒だったから、よく泊まってたんだ。それに初音は明日、休みだからね」
コーヒーを入れてキッチンを出るとまるで三つ巴な不穏な空気…光一さんは相変わらずにこやかに、沢木君は驚いたような顔してるし、副社長は苦虫を噛み潰したような表情で。
「沢木君、帰る?気を付けてね?」
鞄を手にしていた沢木君に声を掛けると、彼は肩を落として帰って行った。
相当疲れたみたいだね、沢木君」
「そのようですね」
さっきの会話は聞こえてなかったのか、東雲は一人分のカップを片付ける。言わずと知れた沢木の分だ。俺はブラック、兄貴はカフェオレ、東雲は紅茶。
「初音、明日は休みだろ?久しぶりに泊まっていきなよ。たまには飲まない?」
「ですが……」
「大丈夫、僕の家だしね。何かあっても輝一がいるし」
おいおい…何かって何だよ…。
「…じゃあ少しだけ……」
「僕も明日は午後一に間に合えばいいから、ゆっくり飲もう」
「はい」
「初音は酒の肴に何か作ってくれ。僕は酒の用意をするよ」
諦めたように返事をすると東雲はキッチンに向かう。
「輝一」
「あ?」
「初音はね、酒に弱いんだ。特にワインにね」
「…だから何だよ」
「七十八年もの…隠してるの知ってるから」
「……いつから?」
「二十歳の誕生日」
「そんな前!?」
「嘘」
「う”っ……」
「それより前から隠してたんだ?」
俺の生まれ年の秘蔵ワイン…そこまでバレてんのかよ。兄貴、侮り難し…。
「チャンスはこの一回しか譲らないよ?」
「っ…」
「初音には好きな相手がいるみたいだけど、手が届かないと思ってるから」
そんな事までバレてんのか、俺っ!?
…ちょっと待てよ…?そんな風に言うって事は、兄貴と東雲はそういう関係じゃないって事か?じゃなきゃ言わないよな、兄貴の事だし……。
東雲は手慣れた感じでトマトとチーズにサラミがのった薄焼きのシンプルなピザに、クラッカーと数種類のディップソースを仕上げていた。
ピザクラストは冷凍庫にあったものだ。それ以外も戸棚や冷蔵庫にあったもの。
「初めてだね、三人で飲むのは」
「俺は外ばっかだからな」
「初音は飲まないし」
「強くないからです」
乾杯を終えて暫くすると、すでに東雲は頬に朱が見え始めた。弱いってのはホントらしい。
仕事の話をしながらだと、東雲は酒が進むらしく、目が潤んでいるように見える。
口調はもう仕事中にはあり得ない崩れっぷりで、自然な笑顔すら惜しみなく披露する。兄貴を【光一さん】とも呼んでる。それでも俺だけは副社長だ。俺の名前知らないとか言わないよな?
すると兄貴がトイレに立った。手には携帯……明らかに寝る気じゃねぇか!暫くして案の定メールが入る。
【明日は朝一で大阪だから、駅側のシティホテルを取ってあるんだ。くれぐれも無理は強いないように】
計画的だ…初めからそのつもりだったな!?すぐに玄関が施錠された音がした。
いつの間に移動したんだ兄貴!
「光一さんはぁ…?」
「…寝ちまったみてぇだな…」
「そっかぁ…副社長も眠い?」
「生憎俺は弱くねぇからな。この程度で酔うかよ」
「弱かったらホテルに誘えないしね~」
「ッ…けほっ…」
唐突な台詞に噎せ返る。悪意があるようで、そうは見えないから余計だ。
「そ…そう言やあ東雲、好きな奴いんだろ?」
「うん…好き」
「っ!?」
恥ずかしそうにふわんと笑う…いつもと違うそんな表情は…反則だろ?
「いつからだ」
「ん…二年くらい~…気付いたら好きだったの」
「告んねぇの?」
「気まずくなったら嫌だもん…今のまんまで贅沢言わない」
誰を思い浮かべてんだか…ワイングラスを眺めながら、切なげに笑う。
「お見合い…しなきゃいけないし~」
「見合い!?」
「来週、両親がこっちに来て~…その時までに決まった人がいなかったら」
「見合い…すんのか?」
「仕方ないかなぁ…って……届かないし」
泣きそうに見えた…届かないのは…俺も同じ……。
「届くかもしれねぇだろ…言えば……」
自分に言い聞かせるように呟いた…。
「届く、かなぁ…?」
「…俺が、届けてやる」
「……好、き……好き…ずっと、好き…なの」
一滴…涙が零れ、涙を指先で掬いながら、東雲の唇をなぞる。
「好き…私、見て……私を…見て……好きなの…お願、い…気付いて……」
俺になら…届いてる……俺ならすぐ返事してやれる。
「しののっ……は、つね…はつ…ね」
「好き……届い、て…好、き…」
「…初音」
「副……き、ぃち…」
「初音……」
俺を…俺の名前を呼ぶ、声…俺だけを見上げる瞳……。向かい合わせに膝に抱き上げても反らされる事はない。
俺にしとけ。そうすりゃ仕事もプライベートも常に一緒にいてやれる。他の女も全部切ってお前だけにだって出来る。だから……。
「初音…俺にしとけ」
「輝、一…?」
「俺を好きになれ…俺を好きだって言え」
「輝一…好き……」
「初音っ…」
堪らず唇を合わせる。滑り込ませた舌で、吐息すら奪い尽くすように…。
「き、い…っ…」
「今だけっ…流されちまえ!」
片手で後頭部を押さえてキスを続け、シャツのボタンを性急に外して肌蹴させる。まるで求められているかのように、初音の指先が俺のシャツのボタンに伸び、卑猥に見える手つきで外していく。
みっちり二時間、基礎から叩き込まれた沢木君は、何だかげっそりして見えたけど、収穫はあったみたい。
「じゃあ、失礼します。東雲さん、送りましょうか?」
「沢木君、初音はうちに泊まるから心配いらないよ」
「しゃ…社長のお宅にですか?」
「大学時代はゼミが一緒だったから、よく泊まってたんだ。それに初音は明日、休みだからね」
コーヒーを入れてキッチンを出るとまるで三つ巴な不穏な空気…光一さんは相変わらずにこやかに、沢木君は驚いたような顔してるし、副社長は苦虫を噛み潰したような表情で。
「沢木君、帰る?気を付けてね?」
鞄を手にしていた沢木君に声を掛けると、彼は肩を落として帰って行った。
相当疲れたみたいだね、沢木君」
「そのようですね」
さっきの会話は聞こえてなかったのか、東雲は一人分のカップを片付ける。言わずと知れた沢木の分だ。俺はブラック、兄貴はカフェオレ、東雲は紅茶。
「初音、明日は休みだろ?久しぶりに泊まっていきなよ。たまには飲まない?」
「ですが……」
「大丈夫、僕の家だしね。何かあっても輝一がいるし」
おいおい…何かって何だよ…。
「…じゃあ少しだけ……」
「僕も明日は午後一に間に合えばいいから、ゆっくり飲もう」
「はい」
「初音は酒の肴に何か作ってくれ。僕は酒の用意をするよ」
諦めたように返事をすると東雲はキッチンに向かう。
「輝一」
「あ?」
「初音はね、酒に弱いんだ。特にワインにね」
「…だから何だよ」
「七十八年もの…隠してるの知ってるから」
「……いつから?」
「二十歳の誕生日」
「そんな前!?」
「嘘」
「う”っ……」
「それより前から隠してたんだ?」
俺の生まれ年の秘蔵ワイン…そこまでバレてんのかよ。兄貴、侮り難し…。
「チャンスはこの一回しか譲らないよ?」
「っ…」
「初音には好きな相手がいるみたいだけど、手が届かないと思ってるから」
そんな事までバレてんのか、俺っ!?
…ちょっと待てよ…?そんな風に言うって事は、兄貴と東雲はそういう関係じゃないって事か?じゃなきゃ言わないよな、兄貴の事だし……。
東雲は手慣れた感じでトマトとチーズにサラミがのった薄焼きのシンプルなピザに、クラッカーと数種類のディップソースを仕上げていた。
ピザクラストは冷凍庫にあったものだ。それ以外も戸棚や冷蔵庫にあったもの。
「初めてだね、三人で飲むのは」
「俺は外ばっかだからな」
「初音は飲まないし」
「強くないからです」
乾杯を終えて暫くすると、すでに東雲は頬に朱が見え始めた。弱いってのはホントらしい。
仕事の話をしながらだと、東雲は酒が進むらしく、目が潤んでいるように見える。
口調はもう仕事中にはあり得ない崩れっぷりで、自然な笑顔すら惜しみなく披露する。兄貴を【光一さん】とも呼んでる。それでも俺だけは副社長だ。俺の名前知らないとか言わないよな?
すると兄貴がトイレに立った。手には携帯……明らかに寝る気じゃねぇか!暫くして案の定メールが入る。
【明日は朝一で大阪だから、駅側のシティホテルを取ってあるんだ。くれぐれも無理は強いないように】
計画的だ…初めからそのつもりだったな!?すぐに玄関が施錠された音がした。
いつの間に移動したんだ兄貴!
「光一さんはぁ…?」
「…寝ちまったみてぇだな…」
「そっかぁ…副社長も眠い?」
「生憎俺は弱くねぇからな。この程度で酔うかよ」
「弱かったらホテルに誘えないしね~」
「ッ…けほっ…」
唐突な台詞に噎せ返る。悪意があるようで、そうは見えないから余計だ。
「そ…そう言やあ東雲、好きな奴いんだろ?」
「うん…好き」
「っ!?」
恥ずかしそうにふわんと笑う…いつもと違うそんな表情は…反則だろ?
「いつからだ」
「ん…二年くらい~…気付いたら好きだったの」
「告んねぇの?」
「気まずくなったら嫌だもん…今のまんまで贅沢言わない」
誰を思い浮かべてんだか…ワイングラスを眺めながら、切なげに笑う。
「お見合い…しなきゃいけないし~」
「見合い!?」
「来週、両親がこっちに来て~…その時までに決まった人がいなかったら」
「見合い…すんのか?」
「仕方ないかなぁ…って……届かないし」
泣きそうに見えた…届かないのは…俺も同じ……。
「届くかもしれねぇだろ…言えば……」
自分に言い聞かせるように呟いた…。
「届く、かなぁ…?」
「…俺が、届けてやる」
「……好、き……好き…ずっと、好き…なの」
一滴…涙が零れ、涙を指先で掬いながら、東雲の唇をなぞる。
「好き…私、見て……私を…見て……好きなの…お願、い…気付いて……」
俺になら…届いてる……俺ならすぐ返事してやれる。
「しののっ……は、つね…はつ…ね」
「好き……届い、て…好、き…」
「…初音」
「副……き、ぃち…」
「初音……」
俺を…俺の名前を呼ぶ、声…俺だけを見上げる瞳……。向かい合わせに膝に抱き上げても反らされる事はない。
俺にしとけ。そうすりゃ仕事もプライベートも常に一緒にいてやれる。他の女も全部切ってお前だけにだって出来る。だから……。
「初音…俺にしとけ」
「輝、一…?」
「俺を好きになれ…俺を好きだって言え」
「輝一…好き……」
「初音っ…」
堪らず唇を合わせる。滑り込ませた舌で、吐息すら奪い尽くすように…。
「き、い…っ…」
「今だけっ…流されちまえ!」
片手で後頭部を押さえてキスを続け、シャツのボタンを性急に外して肌蹴させる。まるで求められているかのように、初音の指先が俺のシャツのボタンに伸び、卑猥に見える手つきで外していく。