アナタ専属
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久々の衝動買いで結局スーツ一式を買った。副社長に付いてた時は、なるべくシックなカラーにするようにしてた。彼に相応しい秘書になる為に。
だから今日は淡いピンクで膝上丈のタイトスカートと白シャツはデコルテが広め。十一センチのピンヒールはスーツと揃いのピンク。新しい手帳も買った。
この長い休みを利用して一人旅をする為の新しいキャリーバッグと服もいくつか衝動買い。パンフレットを何部かもらって帰った。
裏口から大荷物を抱えて自宅に入ると、お父さんが大笑いしてる。閉め切られても聞こえる大声。そんな居間を通り過ぎ、部屋に向かう。私が帰った事にも気付かないくらい話は盛り上がっているらしい。
部屋でタグを外し、キャリーバッグに軽く荷物を詰めて、パンフレットに目を通し始めた。
下呂で温泉三昧、沖縄でマリンスポーツ、北海道で旬の味覚…普段なら行きたいとも思わないけど、今はブラブラしたい気分。考える隙を自分に与えたくない。

「下呂でいっか…近いし」

結局、旅行会社を使わずに行き当たりばったりの旅に決めた。明日のお見合いの後から、ゆっくり二泊くらい出来るかな?

「初音~!帰っとるならそう言ゃあすか。アンタにお客さん来とるで」
「私に?」
「お父さんもすっかり気に入っとるよ。珍しい事もあるわね~」

お父さんは頑固で人嫌い。話し込めばいい人だってわかるのか、新規の知り合いはほぼいない。だから私絡みで大声で笑えるようなお客なんていなかったはず…。
私は不審に思いながらも階段を降りて居間に向かう。相変わらず居間からはお父さんの楽しげな笑い声…さてはお酒入ってるな。けどお酒も親しくない限り、うちでも飲んだりしないのに……。
結局誰だかわからないまま、お母さんに連れられて居間に足を踏み入れた。

「初音、帰っとったわ」
「声くらいかけんか、初音」
「初音…」
「っ……」

何で…何でっ!どうしてうちに…!

「ふ、く…社ちょ…」
「すまない、初音…押し掛けるつもりはなかったが…俺に一言もないなんて納得行かなくて」
「っ…それは…っ」
「しかも見合いなんて…俺じゃ足りなかったか?」

どうしてそんな事…。

「そう言う問題じゃ……」
「そう言う問題だろう?初音が俺を選ばなかったんだ」
「違いますっ!私は…」
「俺が結婚を考えてると言ったら…お前はお義父さんたちに紹介してくれたか?」
「…それは……」
「…そう言う事だろう?俺とは結婚する気もないくせに、会った事もない男とは結婚前提に付き合えるのか?」
「そ、んな事……」

何で…そんな事、一度だって…。私を第一から外しておいて、手頃な相手がいなくなるのが嫌だから…わざわざお父さんまで丸め込んだの?

「俺との事は…なかった事にしたかったか…?」
「っ……」
「初音、そこ座れ」
「はい」

お父さんに言われて示された副社長の隣に座る。

「輝一さんに何も言わずに辞めたのは本当だな?」
「…はい」
「お付き合いがあったのもか?」

付き合い…って言えるのかはわかんない。一度だけだし…けどお父さんに言わせれば同意に値するって言われるだろうから…。

「…はい」
「よく輝一さんと話し合いなさい」

私は仕方なく部屋に案内した。

「…どういうおつもりですか」
「どうもこうもない。さっき話したろ」
「うちの両親を丸め込む言い訳にしか聞こえません」
「なぁ…?俺の事、何とも想ってねぇの?」
「…お世話になった元上司です」

追い詰めるように近付いてくるから、私も無意識に後ずさる。

「ああ…躯の世話もしてやったしな」
「っ!?そんな言い方っ…」
「好きでもねぇ野郎相手でもあんなに乱れるんだしな…兄貴じゃ優しすぎて満足出来なかったんだろ」
「光一さんとはそんな事しませんっ」
「だったら沢木か?秘書教育とか言ってシケ込むつもりだったんじゃねぇのか?経費でよぉ?」
「違っ…」
「なら何だよ、俺と寝た理由は?体よく使おうとしてたんだろ」
「それは副社長の方でしょう!?私は副社長のお付き合いされてる方々のようには……っ」

割り切れない…そう言ってしまいそうになる。光一さんや沢木君とのあるはずもない関係を酷く言い立てられて、私は泣きそうになった。でも泣いたりしたら卑怯な気がして…きゅっと唇を噛みしめて耐えた。

「初音…同じようには何だ?」
「…私は…副社長の遊び相手ではありません。仕事上であなたを支える位置にあっただけです」
「俺のモンになれ、初音」
「…っ」
「そうすりゃ仕事もプライベートだって…常に、傍にいられる」
「…私には……」

無理だって…気付いてよ!

「一週間……」
「?」
「沢木を連れ歩いて、女全部切ってきた」
「!?」
「そうすりゃ少しはお前に考えてもらえるんじゃねぇかと思ったからよぉ…」

沢木君を第一に上げたのは……。

「沢木なら女の標的になる事もねぇしな。それに…ヤキモチくらい焼いてもらえんじゃねぇかとも、な」
「………」
「初めて飲んだ日みてぇに俺の事呼んで、もしかしたら…嫌だって…言ってくれんじゃねぇかって」
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