アナタ専属
表情が読めねぇ…手帳の内容が信じらんねぇ…あれは…ホントに俺の事か……?
「初音…なぁ?俺にしろよ。俺がお前を選んだら、お前は俺を選んでくれんのか?」
「な、何を…副社長…」
「なぁ…お前の二年好きな奴より俺の何が劣る?俺の努力でいつか勝てるのか?」
「止めて下さいっ」
あと…あと一押し…。
「俺が初音を…」
「やめてっ」
耳を塞いだ初音が大きく頭を振った。
「やめてっ…やめて……もう…」
「俺は諦めない…お前がどんなに泣いて叫ぼうが、届くまで何度も繰り返してやる」
「やめて…下さい……私が…ずっと好きだったのは、副社長です……」
「っ…は、つね…」
「あなたにだから流されて…あなたにだから許したんです……私には割り切れないから…一度だけと……」
「……もっと早く…そう言えよ!俺はお前が兄貴と泊まりのセミナー行った後からおかしいしっ!妙な勘ぐりしたり…沢木イビったり……」
驚いたように目を見開いて、初音は俺を見上げた。
「沢木が…お前の手帳見つけた…廃棄箱から」
「っ!?」
「…嘘じゃねぇよな?あれに書いてあった事全部…嘘じゃねぇよなぁ!?」
「…はい……」
「初音っ」
拳を握りしめて目を伏せた初音が小さく返事をした。力任せに抱き寄せて、温もりと香りを感じると安堵の溜息が漏れた。
「俺の事じゃなかったらって…すげぇ焦った……あん時、お前にあんな顔させて、好きだって言われる奴が羨ましくて憎くて…」
「…ぁ」
「初音、今度こそちゃんと考えろよ…こないだのだって、冗談で言ったわけじゃねぇから……」
「…はい……」
「親父さんたちには見合い断ってもらったからな」
「え…?」
「明日の夕方には向こうに戻る用意しとけ」
「私は……」
「辞表は兄貴から奪って即シュレッダーだ。俺が許さねぇ」
「そんな…」
「沢木に今日明日の有給届けを出させてある。明日簡単にで申し訳ないが結納を済ませる話もした」
展開が速すぎる!何、何なの!?
「結、納……?」
「親父さんには後日改めていろいろ用意する話もした。あとはお前がサインするだけ」
手渡されたぺらぺらで緑の印刷の用紙……。
「婚姻届け!?」
「仕事ん時は旧姓でも仕方ねぇけど、基本は及川だからな」
「ちょ…副社長…」
「お前が辞めたのは俺と結婚する為だって、社内で触れ回るように沢木には言ってある」
け…計画的すぎるっ…根回しが早すぎる…。副社長って…こんなに行動早かった!?
「明日、向こうに戻ったら新居見に行くぞ」
「新居!?」
「いいメゾネットがあってな。契約も済ませた。5LLDKだから親父さんたちにもいずれ移って一緒に暮らしてもらえるぜ?」
「ま、さか…その話…」
「すげぇ喜んでくれた。上下でリビングが別にあるからそれぞれの生活守りつつ同居出来るだろ?」
お父さんが上機嫌だった理由はこれね…。確かに副社長は次男だから、うちの両親と同居しても問題ない。私はそろそろお父さんたちも心配だし。
だからって展開早くない!?
「一週間以内に引っ越して、近々親父さんたちにも見に来てもらう約束もした」
「………」
「家具家電の類は揃ってる」
何でこういう事に関しては完璧なの?
結局、手帳で私の気持ちなんかとうの昔に知ってたくせに、私の口から聞きたいが為にここまでしたらしく。
翌日は早々に光一さんや副社長のご両親がいらして、簡単に済ませるはずの結納は、それはもう想像を絶する豪華さで行われた。
前社長である副社長のお父様は私もお会いした事があるし、仕事ぶりも知っていて下さるようで、大変喜んで下さった。副社長からいずれうちの両親と同居する話をしてくれたらしく、それも喜んでくれた。息子にそんな甲斐性があったとは思わなかったらしい。
「初音」
「畏まりました。沢木君、お車を…」
「違う、初音」
「は?」
「俺が車を出す」
「どちらへ?」
「ランチだが?」
「でしたらやはり沢木君…」
「新婚夫婦の邪魔なんてしねぇよなぁ、沢木ぃ?」
「は…はいっ、仰る通りです」
「じゃあ行こうぜ、初音?」
沢木君のただならぬ怯えっぷりを気にかけつつ、輝一の愛車でランチに向かう。輝一は入籍以来…と言ってもまだ一週間、毎日ランチに私を連れ出し、夜は新居で私が作る。
必ず定時退社で一緒に買い物に行く。スーツ姿のカップルは目立つらしく、かなり優越感らしい。
ああでもないこうでもないといいながら、スーパーを回るのが楽しいみたいで。
自炊は一切しない輝一。光一さんが自炊するけど、派手な付き合いの輝一とはすれ違いの生活をしているから、口にする事がなかったみたい。
外は洋食ばかりだけど、輝一自身は和食党。お義母さんの影響だそうだ。
「あ、初音」
「はい?」
「披露宴が一ヶ月後に決まった」
「はぁ!?」
「白無垢でもウェディングドレスでもな」
破天荒副社長との生活は破天荒極めるのが目に見えてるけど、これもアリ?
披露宴を盛大に終えて、俺たちはその足で一週間のハネムーン……しかし、毎日のように電話がある。ハネムーンどころの騒ぎじゃねぇし、会話は仕事の事ばっか。
「ハネムーンになってねぇ…」
「仕方ありません。急すぎたんですから」
「この休み…ぜってぇ取り返してやる!」
「無理ですね」
「お前…奪還してやろうとか思わねぇ?」
「…仕事ばっかりだけど、二人でいられるから……」
クソっ……最近、こうやって妙に可愛い事言ったりすんだよ、初音。これまでの分も幸せにしてやろうって思ってるのに、こんな事でも幸せそうに可愛く笑うから~っ!
「初音ぇ~!」
「副社長っ!勤務時間中です!何度申し上げたらわかって頂けるんですかっ!!」
日々、こんなやりとりが四六時中。呆れた兄貴が、一週間プラス三日のイギリス出張に行かせてくれたのは、それから四日後の事――。
「初音…なぁ?俺にしろよ。俺がお前を選んだら、お前は俺を選んでくれんのか?」
「な、何を…副社長…」
「なぁ…お前の二年好きな奴より俺の何が劣る?俺の努力でいつか勝てるのか?」
「止めて下さいっ」
あと…あと一押し…。
「俺が初音を…」
「やめてっ」
耳を塞いだ初音が大きく頭を振った。
「やめてっ…やめて……もう…」
「俺は諦めない…お前がどんなに泣いて叫ぼうが、届くまで何度も繰り返してやる」
「やめて…下さい……私が…ずっと好きだったのは、副社長です……」
「っ…は、つね…」
「あなたにだから流されて…あなたにだから許したんです……私には割り切れないから…一度だけと……」
「……もっと早く…そう言えよ!俺はお前が兄貴と泊まりのセミナー行った後からおかしいしっ!妙な勘ぐりしたり…沢木イビったり……」
驚いたように目を見開いて、初音は俺を見上げた。
「沢木が…お前の手帳見つけた…廃棄箱から」
「っ!?」
「…嘘じゃねぇよな?あれに書いてあった事全部…嘘じゃねぇよなぁ!?」
「…はい……」
「初音っ」
拳を握りしめて目を伏せた初音が小さく返事をした。力任せに抱き寄せて、温もりと香りを感じると安堵の溜息が漏れた。
「俺の事じゃなかったらって…すげぇ焦った……あん時、お前にあんな顔させて、好きだって言われる奴が羨ましくて憎くて…」
「…ぁ」
「初音、今度こそちゃんと考えろよ…こないだのだって、冗談で言ったわけじゃねぇから……」
「…はい……」
「親父さんたちには見合い断ってもらったからな」
「え…?」
「明日の夕方には向こうに戻る用意しとけ」
「私は……」
「辞表は兄貴から奪って即シュレッダーだ。俺が許さねぇ」
「そんな…」
「沢木に今日明日の有給届けを出させてある。明日簡単にで申し訳ないが結納を済ませる話もした」
展開が速すぎる!何、何なの!?
「結、納……?」
「親父さんには後日改めていろいろ用意する話もした。あとはお前がサインするだけ」
手渡されたぺらぺらで緑の印刷の用紙……。
「婚姻届け!?」
「仕事ん時は旧姓でも仕方ねぇけど、基本は及川だからな」
「ちょ…副社長…」
「お前が辞めたのは俺と結婚する為だって、社内で触れ回るように沢木には言ってある」
け…計画的すぎるっ…根回しが早すぎる…。副社長って…こんなに行動早かった!?
「明日、向こうに戻ったら新居見に行くぞ」
「新居!?」
「いいメゾネットがあってな。契約も済ませた。5LLDKだから親父さんたちにもいずれ移って一緒に暮らしてもらえるぜ?」
「ま、さか…その話…」
「すげぇ喜んでくれた。上下でリビングが別にあるからそれぞれの生活守りつつ同居出来るだろ?」
お父さんが上機嫌だった理由はこれね…。確かに副社長は次男だから、うちの両親と同居しても問題ない。私はそろそろお父さんたちも心配だし。
だからって展開早くない!?
「一週間以内に引っ越して、近々親父さんたちにも見に来てもらう約束もした」
「………」
「家具家電の類は揃ってる」
何でこういう事に関しては完璧なの?
結局、手帳で私の気持ちなんかとうの昔に知ってたくせに、私の口から聞きたいが為にここまでしたらしく。
翌日は早々に光一さんや副社長のご両親がいらして、簡単に済ませるはずの結納は、それはもう想像を絶する豪華さで行われた。
前社長である副社長のお父様は私もお会いした事があるし、仕事ぶりも知っていて下さるようで、大変喜んで下さった。副社長からいずれうちの両親と同居する話をしてくれたらしく、それも喜んでくれた。息子にそんな甲斐性があったとは思わなかったらしい。
「初音」
「畏まりました。沢木君、お車を…」
「違う、初音」
「は?」
「俺が車を出す」
「どちらへ?」
「ランチだが?」
「でしたらやはり沢木君…」
「新婚夫婦の邪魔なんてしねぇよなぁ、沢木ぃ?」
「は…はいっ、仰る通りです」
「じゃあ行こうぜ、初音?」
沢木君のただならぬ怯えっぷりを気にかけつつ、輝一の愛車でランチに向かう。輝一は入籍以来…と言ってもまだ一週間、毎日ランチに私を連れ出し、夜は新居で私が作る。
必ず定時退社で一緒に買い物に行く。スーツ姿のカップルは目立つらしく、かなり優越感らしい。
ああでもないこうでもないといいながら、スーパーを回るのが楽しいみたいで。
自炊は一切しない輝一。光一さんが自炊するけど、派手な付き合いの輝一とはすれ違いの生活をしているから、口にする事がなかったみたい。
外は洋食ばかりだけど、輝一自身は和食党。お義母さんの影響だそうだ。
「あ、初音」
「はい?」
「披露宴が一ヶ月後に決まった」
「はぁ!?」
「白無垢でもウェディングドレスでもな」
破天荒副社長との生活は破天荒極めるのが目に見えてるけど、これもアリ?
披露宴を盛大に終えて、俺たちはその足で一週間のハネムーン……しかし、毎日のように電話がある。ハネムーンどころの騒ぎじゃねぇし、会話は仕事の事ばっか。
「ハネムーンになってねぇ…」
「仕方ありません。急すぎたんですから」
「この休み…ぜってぇ取り返してやる!」
「無理ですね」
「お前…奪還してやろうとか思わねぇ?」
「…仕事ばっかりだけど、二人でいられるから……」
クソっ……最近、こうやって妙に可愛い事言ったりすんだよ、初音。これまでの分も幸せにしてやろうって思ってるのに、こんな事でも幸せそうに可愛く笑うから~っ!
「初音ぇ~!」
「副社長っ!勤務時間中です!何度申し上げたらわかって頂けるんですかっ!!」
日々、こんなやりとりが四六時中。呆れた兄貴が、一週間プラス三日のイギリス出張に行かせてくれたのは、それから四日後の事――。