ただ、名前を呼んで
・カスミ
母の名前はカスミ。
良くも悪くもぴったりな名前だと思う。
ふんわりとして優しい母。
それと同時に、儚くて繊細な母。
その繊細さ故に、母の心は父の死に耐えられなかったんだ。
祖父は幼い僕に向かって、包み隠さず話してくれた。
僕の父は母に劣らず弱い人だった。
父の勤めていた会社の幹部が、違法な取引に手を出していた。
それが公になりそうな時、父は濡れ衣を着せられた。
気の弱い父が反抗できるはずもなく、無実の罪を苦に自殺。
母は自らを責めた。