ただ、名前を呼んで
・父への思い
『僕は母が好き』
それは僕にとって決まりきったことだ。
じゃあ父は?
ある日の夕食の後、祖父は僕に聞いた。
「拓海は拓郎が嫌いか?」
確かに、僕が求めているのは母ばかり。
父が母を置いて逝ってしまったことには憤りさえ感じている。
だけどすぐに「嫌いだ」と答えることは出来なかった。
嫌いな訳ではない。
だって幼い頃の僕は、母だけでなく父の姿も確かに求めていたんだから。