ただ、名前を呼んで
夢を見るようなもしもの話は好きじゃないけれど、母を見ているとどうしても考えてしまう。
もしも僕がもっと早く産まれていれば、母は僕を忘れなかったろうか。
もしも母の心が強ければ、僕と一緒に暮らして居たのだろうか。
母のベッドに上半身を俯せて、僕は息を吸い込む。
僕の知っている母の匂いは、ここのシーツの匂いだ。
ふと顔を上げると母と目が合ってドキンとした。
母が僕を見ている。
僕が……分かるの?