ただ、名前を呼んで


施設の門を出てから僕は駆け出した。
途中何度も振り返りながら。


『また、きてね』


母にとってどんな意味を持っていたのか、誰に向けたのかもわからない。

だけどそんな事気にもならないほど僕は興奮していた。

初めて母の声を聞いた時以来、いやそれ以上に興奮している。


明日もきっと行くよ。
明日も明後日も、毎日行く。


夢中で走る僕は周りの景色に、意識が向いていなかったんだ。


気付いた時には鈍い痛みが広がっていた。
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