ただ、名前を呼んで
施設に着き、母の部屋の扉を勢い良く開ける。
それに反応した母がこちらを向いた。
走って来たせいで乱れた呼吸を整えながら、僕は母に笑いかける。
「お母さん、今日まで来れなくてごめんね?」
母は固まったようにじっと僕を見ている。
捕らえるような視線に僕が少したじろぐと、母はぽつりと呟いた。
「けが、したの?」
“怪我したの?”
母がまた僕に問いかけたのだ。
僕は嬉しさと少しの戸惑いが混じり合って、曖昧に微笑んでみせた。