ただ、名前を呼んで

「怪我が怖い?ごめんね?」


僕の声を聞いているのかいないのか、母はうぅ、と細い声を上げた。

怯えていたその目は次第に悲しみを帯び始める。

涙がゆらゆらと浮かび、ついに母は泣き出してしまった。
ただ、その目は僕の方に向いたままだ。


訳が分からない僕はただ立ち尽くすだけ。

母を落ち着かせたくて、思わずその怪我をした右手を母に差し出す。

瞬間、母はキュッと身構えた。
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