ただ、名前を呼んで
「いや、いやぁぁ…拓郎…拓郎…!!」
両手で頭を抱えこむ母。
父の名前を必死に呼んでいる。
それはいつもの舌足らずなモノじゃなく、ハッキリと発している。
僕が怯えさせてしまったのだろうか。
困惑して情けなくうろたえる僕。
母が切ない叫び声を上げる。
「拓郎!!行かないでぇっ……置いて行かないでぇー!!」
僕の胸を鋭くえぐるほど、悲痛な母の叫び声。
「お母さん……。」
名前を呼ぶことしか出来ない無力な自分を思い知る。