ただ、名前を呼んで
母の時計。
生きる内に母が刻むはずだった心の時計。
それが今また動き始めた。
「お母さんの、時計……。」
ぼんやりと呟きながら、僕はここ最近の母の様子を思い出す。
父の名前を呼び、周囲の言葉に反応し始めた。
僕に声をかけてくれ、笑顔までも見せてくれる。
そうだ、兆しはあったんだ。
母はもう心を取り戻しかけている。
喜ぶべき事なのに、やっぱり不安は消しきれない。
母は傷つかないだろうか?
いつか内藤さんが訴えたように。