ただ、名前を呼んで

母は僕を知らないようだった。
だけど母の途絶える前の記憶に僕はまだ居ないのだから、それは仕方のない事に思える。

事態をはっきり理解できなくて困惑している僕を、内藤さんが部屋の外へと連れ出す。


「あの……お母さん、治ったんですか?」

「いや……完全に治った訳じゃないんだ。」


内藤さんは俯いたままで静かに話す。

どういう事だろう?
あんなにも自然に話すことが出来るのに。


「ある時期までの記憶は戻っているらしいんだが……」
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