ただ、名前を呼んで
ぼんやりとその光景を眺めて居ると、母がこちらに視線を向けた。
「あのこ、誰?」
さっき会ったことをもう忘れているのだろうか。
母は僕を指さし、そばに居た内藤さんに尋ねた。
「彼は……知人の子供だ。今日は預かっているんだ。」
内藤さんがチラチラと僕を見ながらそう答える。
僕の正体は明かせない。
母がじっとこちらを見ているので、精一杯さりげなく微笑んで見せる。
「はじめまして……。」
今、笑えているだろうか。