ただ、名前を呼んで
恐る恐る母の顔を見ると、目を見開いてまばたきすらしない。
身体は両腕で自身を抱きしめたまま硬直していた。
僕が目を離せないで居ると、母の表情が次第に歪み始めた。
そしてふるふると首を振り、ブツブツとしきりに何か呟き出す。
その声は段々と大きくなり、震えた声が空間を揺らした。
「……いや!いや!いや!いや!」
まるで壊れたスピーカーみたいだ。
声は激しさを増し、泣き声みたいに僕の胸を刺した。