ただ、名前を呼んで

コンコンとドアをノックされ、上半身をムクリと起き上がらせる。


「拓ちゃん、帰ってるの?」

「うん、さっき。」


僕はドアを開けてやることもせず、ぶっきらぼうに答える。


「カスミさんの所へは行ったの?」


遠慮がちな祖母の言葉。
今の僕には優しく答える余裕なんてなかった。


「まあね。」

「そう……大丈夫?」


大丈夫って……
全然大丈夫なんかじゃないよ。
もう嫌だ、思い出したくない。


「もう良いんだ!僕はもう会いに行かない!」
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