ただ、名前を呼んで
いつだったか、内藤さんの怒鳴り声に怯えた母をなだめた事を思い出す。
あの時の僕は、母を傷付ける人は誰であっても許せないと思っていた。
今ではそれが僕自身だなんて、僕にとっては酷な事実だった。
内藤さん夫妻は母を連れて、もっと田舎の静かな地域に引っ越すつもりだと言う。
僕らが簡単には行けないような遠い場所。
母が行ってしまう。
このままじゃ僕はきっと後悔する。
だけど今の僕に一体何が出来る?