ただ、名前を呼んで
この扉を開けると、いつも僕の目に映る光景は決まっていた。
窓からの光に照らされて、空を見つめる母の横顔。
そして今日僕の目に映ったのも同じモノで、なんだかとても安心した。
訪問者に気付いた母が、ゆっくりとこちらを向く。
変わったことを、一つ見付けた。
定まらないような不安定な瞳が、真っ直ぐに僕を捕らえるようになったことだ。
「だぁれ?迷子なの?」
僕は不器用に笑って小さく首を振った。
「違います。あなたに会いに来たんです。」