ただ、名前を呼んで
目を合わせてくれない事は寂しいけど、顔を見られずに済むのならそれでも良いと思った。
僕はその柔らかそうな黒髪が垂れる横顔に問いかける。
「何を見てるんですか?」
僕の言葉に母はふるふると首を振った。
「待ってるの。」
「待ってる?何を?」
触れれば突き抜けてしまいそうな、母の白い肌。
その先にある弱々しい手の平が、きゅっと握られた。
「拓郎。私が一番愛してる人。」
僕の心臓が、思い切り殴られたみたいにドクンと響いた。