ただ、名前を呼んで

「僕はね、ずっと強くなりたいって思ってた。お母さんを守るためなんだよ?」


父が居ないのなら、弱いお母さんを守るのは僕の役目だって思ってた。

いつか大人になったらきっと背ももっと伸びて、腕も手も大きくなるから。

今の僕はまだ、ひょろりと細長い腕しか持っていないけれど。


「お母さんはいつも黙って空や天井を見つめてた。それで僕はその横顔を見てたんだ。初めて声を聞いた時は、凄く驚いたよ。」


『たく』と二文字の言葉を歌うように口にした母。

その時の僕は嬉しくて、悲しかった。
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