ただ、名前を呼んで

「さぁ乗りなさい、カスミ。」

「嫌よ!拓郎は?拓郎が迎えに来るまでここに居る!」


タクシーへと促す内藤さんと、激しく拒否する母。
内藤さんの奥さんはただオロオロするばかり。


「聞き分けなさい、カスミ!」

「やだぁ!!拓郎!!拓郎!!」


声に苛立ちが混じる内藤さん。

それでも母はひるまない。内藤さんに腕を引かれながらも、身をよじって逃れようとする。

母はまるで駄々をこねる子供のよう。

それでいて愛しい人を必死に想う、一人の女性だった。
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