ただ、名前を呼んで

パッと花が咲くみたいに、光を弾いて笑う母。

その瞳は恋をしている少女みたい。「好きよ好きよ」とその目が言ってる。

父をどれだけ愛していたか、表情を見るだけで分かる。


気持ち良さそうに日の光を浴びる母の横顔から画面が移動し、ゆっくりと母の身体が映される。

カーディガンからのぞく、少しぽこりと出たお腹。

母の右手が優しく撫でる。


『もうすぐだね、カスミ。』

『そうよ。もうすぐ家族が増えるの。楽しみね。』


もうすぐ増える家族。
それはつまり僕の事だ。
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