ただ、名前を呼んで

生まれる前の僕が居るお腹を、慈しむように撫でる母。

その愛しそうな目が僕に対して向けられたものだと思うと、どうしようもなく胸が詰まる。


『カスミ?その子の名前を教えてよ。』


父の声が母に問い掛ける。
母はクスクス笑って『いいよー』と答えた。


『この子の名前は拓海でーす。』


え?


『拓海君。とても良い名前だね。』


母はまたクスクス笑う。

僕の名前は祖父が考えたものだと思ってた。

けど違ったんだ。
父と母が決めていた名前をそのまま付けてくれたんだ……。
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