ただ、名前を呼んで
不意に隣の席の奴が半身をよじって後ろを向いた。
彼が照れたように手を振った先には、柔らかに微笑む母親の姿。
羨ましいだとか、妬ましいとは思わない。
だけど僕はひっそりと想像するんだ。
授業を受ける僕を優しく見守る母の姿を。
きっと母は少しお洒落をして、お化粧もしてくる。
そしてニコニコしながら僕に手を振るんだ。
うん、悪くない。
妄想の世界に浸っている僕の思考回路を、始業のチャイムが断ち切った。