ただ、名前を呼んで
だけど不思議と母の前では上手くいかない。
下らない話も沢山したいし、何より僕の事を知って欲しい。僕の声に耳を傾けて欲しい。
「今日は夕日が綺麗だよ。」
ベッドのすぐそばの窓に近寄り、カーテンを開ける。
朱く柔かい光に照らされた母に、なんだか泣きたくなった。
沸き上がる、衝動。
その白い掌に撫でられたらどんなに気持ち良いんだろう。
その細い腕に抱きしめられたらどんなに心地良いんだろう。
がむしゃらに抱き着いて、その膝に寄り掛かって甘えたい。
母はまた空虚を見つめた。