ただ、名前を呼んで
言いたくない。
言ってしまいたい。
絞り出すように僕は答える。
「…たく……。」
祖母はそれで察したようだ。回した腕に力を込める。
「そう。良くなってるんだね……良かったね。」
これ以上僕が傷付かないように。心が痛くないように、祖母は言った。
そうだね。
父の名前を呼べたのだとしたら、それは凄い進歩なんだ。
「いつか……僕のことも見てくれるかな?」
祖母は目に涙を浮かべながら、何度も何度も頷いてくれた。