ただ、名前を呼んで

タク。カナシイノ?

違うよ、悔しいんだ。悔しくて泣いてるんだ。

だけどね、悲しくもなっちゃったよ。

その切ない瞳に映るのは、僕じゃないって知っているから。



「たく。たく。」


呆然と見つめる祖父母の側で、ぽつぽつと呟く母。

母は次第にご機嫌になってきた様子で、二文字の言葉を繰り返している。

僕には、それはまるで歌のように聞こえた。


そんな母を横目に、祖父はハァと大きく息をついた。
どうやら彼はあからさまなため息が得意らしい。
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