ただ、名前を呼んで
その時の僕は生唾を飲み込みながら、ひっそりとたたずむ施設の門をくぐった。

入口のおじさんに「お母さんに会いに来ました。」と僕は告げ、おじさんに導かれるままに廊下を渡った。

途中、ぼんやり一点を見つめる人や、奇声を上げる人にビクビクしながら。


そうしている間におじさんが一つの扉の前で立ち止まり、「ここだ。」と告げた。

僕は背中にかけられたおじさんの手に促され、部屋の中に歩を進める。

そこに居たぼんやり空を眺める女性に向かって僕は言った。


「初めまして、お母さん。」
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