ただ、名前を呼んで

目の前が滲むのを何とかごまかしながら、僕は母のベットの側に丸椅子を寄せる。

そこに腰掛けてぽつりぽつりと語りかける。


「僕は拓海。あなたと拓郎さんの息子だよ。」


母はぼんやりと僕を見ている。聞いているのか、いないのか。


「僕はね、3年生の時から毎日来てるんだよ。風邪をひいて来れなかった時もあったんだけど、ほとんど毎日。」


僕は一つ一つ語る。僕を知らないのなら、これから知って欲しいから。

これから何年か後、母の具合がもっと良くなった時、母の瞳が僕を映していればいいな。
< 81 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop