ただ、名前を呼んで
目の前が滲むのを何とかごまかしながら、僕は母のベットの側に丸椅子を寄せる。
そこに腰掛けてぽつりぽつりと語りかける。
「僕は拓海。あなたと拓郎さんの息子だよ。」
母はぼんやりと僕を見ている。聞いているのか、いないのか。
「僕はね、3年生の時から毎日来てるんだよ。風邪をひいて来れなかった時もあったんだけど、ほとんど毎日。」
僕は一つ一つ語る。僕を知らないのなら、これから知って欲しいから。
これから何年か後、母の具合がもっと良くなった時、母の瞳が僕を映していればいいな。