ただ、名前を呼んで
「隣の家にはチビって犬が居てね、僕はたまに遊んでやるんだ。お母さんは、犬は好き?」
「たくろう?」
僕がどんなに話し掛けても、母から返ってくるのはそればかりで。
なんだか情けなくて悔しい。
それでも僕は平然と答えなければならない。
「違うよ。僕は拓海。」
「たくろう、居ないの?」
瞬間、僕は息をのんだ。
母が僕の言葉を理解し、応えたのだ。
しばらく僕は何も言えずに母の顔を見つめる。
「たくろう、居ない?」