ただ、名前を呼んで
12歳の初夏。
母と初めて会話をした。
その内容は僕の事ではなく、もうすでに居なくなった父の事だった。
「たくろう?」
「拓郎さんはもう居ないよ。」
僕はそう返事してやった。無意識に突き放すような口調になってしまい、口をつぐむ。
「たくろう……。」
そろりと顔を上げると、悲しい目をした母の顔があった。
そんな顔しないで。
悲しませたのなら謝るから。
だけど、一度くらい僕の名前を呼んでくれてもいいだろう?
ねぇ、お母さん。