ただ、名前を呼んで
「やあ、カスミさん。」
柔らかに声をかける祖父の後ろで、隠れるようにしながら様子を窺う僕。
キョトンとしたままの母に向かって祖父は続ける。
「今日は良いお天気ですね。」
僕はちらりと母を見る。
窓の外の光が母を照らす。
母はゆっくりと口角を持ち上げて、穏やかに、とても穏やかに微笑んだんだ。
瞬間、僕は泣き出したいような、抱き着きたいような衝動にかられる。
母が笑った。
ただそれだけの事なのに、僕には胸が締め付けられるほどの喜びだった。