ただ、名前を呼んで
祖父を見ると唇を噛み締めている。眼を微かに潤ませて。
「じいちゃん……。」
呼びかけると祖父はゆっくりと僕の方に顔を向けた。
「カスミさんは、やっぱり笑顔が素敵だな。」
祖父の言葉は、僕が感じた全ての気持ちそのものだったかもしれない。
初めて見た母の笑顔は、僕らの中にある濁った感情を浄化するような、優しい笑顔だったんだ。
僕と祖父は色々なことを母に語りかける。
その間祖父の左腕はずっと僕の背中に回されていた。