ただ、名前を呼んで

不意に扉の開く気配がした。相変わらず静かな扉なので音はしなかったのだけど。

入口を振り返る僕と祖父。
そこに居た威圧的な眼と視線がぶつかる。


「佐原……。」

「内藤、さん。」


『内藤』は母の旧姓。
つまりそこに居たのは母方の祖父母だ。
会うのは、これが二度目。

母方の祖父は得意のあからさまな溜め息をついた。
その後ろで祖母が控え目に様子を窺っている。

母方の祖父(ややこしいので、内藤さんと呼ぼう)が口を開く。


「何しに来たんだ。」
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