Love at first sight.
「呉羽、彼女が新婦で俺の後輩の東雲だ。彼女の旦那は俺の同期の弟にあたる」
「初めまして。今は一応及川ですが、夫の秘書をしております」
「相模呉羽です。おめでとうございます」
幾分緊張した感は否めないが、それでも呉羽はにこやかに受け答えた。東雲の務める及川商事の社長、及川光一は俺の同期で、久々に及川にも会えた。光一の弟の輝一が新郎らしく、新郎の先輩に当たるKAIコーポレーション社長の甲斐征志郎氏とも会う事が出来た。
甲斐氏の妻は十八で双子の母…甲斐運輸絡みの事件の被害者遺族だ。被害者遺族と加害者の親会社トップの電撃結婚の話は知っていたが、本当に愛し合っていて幸せな空気は雰囲気からも伝わった。
「結婚も跡継ぎも…義務だと思ってきましたが……妻となら義務でなく切望にかわったんですよ」
甲斐氏の事は経済誌でよく知っていたが、こんなに穏やかな人物ではなかった気がする…その人物を変えるほどの恋……俺は強く呉羽を想い浮かべた。
「可愛いっ…ふにふにしてる~」
甲斐氏の男女の双子を交えて、呉羽はその妻と和やかに話をしていた。
「確か巽社長の奥様ですよね?」
「いえ…今日は…頼まれて……」
「そうなんですか!?」
「あ…はい…」
「そんな風には見えないですよ。巽社長、嬉しそうですよ?」
「…そう…でしょうか…私には何とも…」
「じゃなきゃ頼まないですよ。うちの旦那様はこういう場は女性に結婚とか意識させてしまうから、決めた女性でないと同伴させられないって言ってましたから」
少し離れている呉羽らの会話は聞こえないが、表情が曇った事で不安が生じている事に気付き、すぐにでも傍に行きたくなった。
「お連れが気になりますか?」
「…そうですね」
甲斐氏に気付かれてその通り答えた。
「失礼だが…お付き合いは?」
「昨日からです」
「そうでしたか…期間は関係ありませんがね…」
甲斐氏夫妻のロマンスは経済界では有名な話だ。
「私共夫婦の話は?」
「存じておりますよ」
「三十越えて、十六だった女子高生の妻に二年の片想いでした」
驚いた…話の内容にもだが、甲斐氏の穏やかで少し照れたような表情に。そんな事を俺に話してくれた事に…。
「何故俺にそんなお話を?」
「昔の私の幻を見たかと思いました…巽氏はまるで…妻と通い合う前の私のように見えたんですよ」
俺が…昔の甲斐氏に…?
「【愛してる】と告げるまでに何度も嫌な思いをさせました…特にこう言ったパーティーはトラウマになってはいないかと思うほど」
「………」
「無理を押して健気に付いてくる妻を守れるのは私だけだと…それからは本心を口にする事を躊躇わなくなりましたがね」
呉羽は甲斐氏の妻といつしか笑顔で話をしていた。双子の一人を腕に大切そうに抱き、破顔するその様相に近い将来を思わせる。その相手に…俺は…なれるだろうか?
「リア、そろそろ帰るがいいか?」
「うん。征も燐も寝かせてあげなきゃ」
我が子を抱き上げた甲斐氏が妻の肩を抱いた。呉羽は甲斐氏の妻に抱いていた子を返す。
「抱っこさせて下さってありがとうございました」
「とんでもないです。楽しちゃいましたから」
「だから中までベビーカーを持ってこいと言っただろ」
「征志郎が恥ずかしいかなって…」
「そんな事よりお前が疲れない事の方が重要だ」
幸せならばこんな雰囲気も悪くはないと思えた。微笑む呉羽はそんな生活を望んでいるのだろうか?思い描くならば誰が隣で呉羽に微笑んでいる構図だろう?
俺であって欲しい…こんな事を考えるほど、俺は呉羽を想っている……。
「俺たちも行こうか」
「はい」
甲斐夫妻を見送った俺たちは東雲に一声掛けて会場を後にした。
「初めまして。今は一応及川ですが、夫の秘書をしております」
「相模呉羽です。おめでとうございます」
幾分緊張した感は否めないが、それでも呉羽はにこやかに受け答えた。東雲の務める及川商事の社長、及川光一は俺の同期で、久々に及川にも会えた。光一の弟の輝一が新郎らしく、新郎の先輩に当たるKAIコーポレーション社長の甲斐征志郎氏とも会う事が出来た。
甲斐氏の妻は十八で双子の母…甲斐運輸絡みの事件の被害者遺族だ。被害者遺族と加害者の親会社トップの電撃結婚の話は知っていたが、本当に愛し合っていて幸せな空気は雰囲気からも伝わった。
「結婚も跡継ぎも…義務だと思ってきましたが……妻となら義務でなく切望にかわったんですよ」
甲斐氏の事は経済誌でよく知っていたが、こんなに穏やかな人物ではなかった気がする…その人物を変えるほどの恋……俺は強く呉羽を想い浮かべた。
「可愛いっ…ふにふにしてる~」
甲斐氏の男女の双子を交えて、呉羽はその妻と和やかに話をしていた。
「確か巽社長の奥様ですよね?」
「いえ…今日は…頼まれて……」
「そうなんですか!?」
「あ…はい…」
「そんな風には見えないですよ。巽社長、嬉しそうですよ?」
「…そう…でしょうか…私には何とも…」
「じゃなきゃ頼まないですよ。うちの旦那様はこういう場は女性に結婚とか意識させてしまうから、決めた女性でないと同伴させられないって言ってましたから」
少し離れている呉羽らの会話は聞こえないが、表情が曇った事で不安が生じている事に気付き、すぐにでも傍に行きたくなった。
「お連れが気になりますか?」
「…そうですね」
甲斐氏に気付かれてその通り答えた。
「失礼だが…お付き合いは?」
「昨日からです」
「そうでしたか…期間は関係ありませんがね…」
甲斐氏夫妻のロマンスは経済界では有名な話だ。
「私共夫婦の話は?」
「存じておりますよ」
「三十越えて、十六だった女子高生の妻に二年の片想いでした」
驚いた…話の内容にもだが、甲斐氏の穏やかで少し照れたような表情に。そんな事を俺に話してくれた事に…。
「何故俺にそんなお話を?」
「昔の私の幻を見たかと思いました…巽氏はまるで…妻と通い合う前の私のように見えたんですよ」
俺が…昔の甲斐氏に…?
「【愛してる】と告げるまでに何度も嫌な思いをさせました…特にこう言ったパーティーはトラウマになってはいないかと思うほど」
「………」
「無理を押して健気に付いてくる妻を守れるのは私だけだと…それからは本心を口にする事を躊躇わなくなりましたがね」
呉羽は甲斐氏の妻といつしか笑顔で話をしていた。双子の一人を腕に大切そうに抱き、破顔するその様相に近い将来を思わせる。その相手に…俺は…なれるだろうか?
「リア、そろそろ帰るがいいか?」
「うん。征も燐も寝かせてあげなきゃ」
我が子を抱き上げた甲斐氏が妻の肩を抱いた。呉羽は甲斐氏の妻に抱いていた子を返す。
「抱っこさせて下さってありがとうございました」
「とんでもないです。楽しちゃいましたから」
「だから中までベビーカーを持ってこいと言っただろ」
「征志郎が恥ずかしいかなって…」
「そんな事よりお前が疲れない事の方が重要だ」
幸せならばこんな雰囲気も悪くはないと思えた。微笑む呉羽はそんな生活を望んでいるのだろうか?思い描くならば誰が隣で呉羽に微笑んでいる構図だろう?
俺であって欲しい…こんな事を考えるほど、俺は呉羽を想っている……。
「俺たちも行こうか」
「はい」
甲斐夫妻を見送った俺たちは東雲に一声掛けて会場を後にした。