Love at first sight.
「これからはこちらで定期的に購入したいんだけど…大量注文出来るかしら?」
「あ、はい。一週間前にこちらにご記入頂いてファックス下されば、宅配も可能です」
注文用紙を手渡すとそれに目を落としてくれる。
「試飲用の豆も用意がありますので、一通りお付けしておきますね」
「ありがとう。会議のデリバリーもあるのね」
「はい。そちらは三時間前には連絡下さればご用意してお届けに上がれます。及川商事様でしたら車で十分くらいですから、ご希望でしたら器具とスタッフが伺ってその場でご用意も出来ますが、その場合はスタッフの絡みがございますので一週間頂戴しています」
「それもいいわね。一度検討するわ」
クリアファイルに資料をしまいながら、東雲さんが笑う。
「少しお話出来る?」
そう誘われて、バイトの子に声をかけた。お昼も過ぎてお客さんも少ない時間だったから、私は注文された一式を用意してから、ソイラテを作って東雲さんとテーブルにつく。
「ごめんなさいね、仕事中に」
「いえ、今日は開店から閉店までの特殊シフトなので、三時間は休憩時間がありますから」
「大変ね」
「楽しいです」
「そう…いい事だわ。それでわざわざ時間をもらったのはお願いがあって」
東雲さんは穏やかな笑顔で話を続ける。
「リアちゃんが…KAIコーポレーションの甲斐社長の奥様なんだけど…双子のお母さん」
「あ、はい。わかります」
「あの子がまた相模さんに会いたいって」
「私に…ですか?」
「年近い女の子の友達が周りにいないのよ。甲斐社長の妻ってだけで避けられがちでね…事件の事は知ってる?」
「はい…すごくニュースになりましたよね」
加害者の会社の社長さんと被害者の娘さん。普通なら二度と会いたくなんてないだろう関係が、結婚しちゃった…なんて、何だがドラマや映画の話みたいに思えたんだよね。
「そのせいか、元々なのか人見知りもあるんだけど、パーティーで喋ってくれたのは相模さんだけで、もっと話したかったって」
「そうなんですか…」
「私は姉みたいなものだから、友達って感じではないし。今度連れて来るから、シフト教えてくれない?」
「はい、わかりました」
バックのロッカーから携帯と手帳を持ち出すと、テーブルに戻る。
「明日から五日は連勤で、二時からクローズまでです」
「じゃあこの土曜はお休み?」
「はい」
東雲さんは赤いヴィトンのエピの手帳を広げて、メモをとった。
メアドと携番も東雲さんと交換する。
「私から教えてもいいの?」
「はい。お願いします」
「…迷惑だったら正直に言って?」
「そんな…私……」
私は東雲さんに郷里の話をした。
小中と分校で全学年が一つの教室で授業を受けるような、両手で数えられる人数しかいなかった。高校は片道二時間の通学で地元のローカル線から何度も乗り換えて通ったし、年の近い友達だってみんな今は都会に出てしまって連絡は付かない。過疎化は酷いけど湯治場としては比較的有名…空き家が多くて管理もされてない。
「そんなですから、私も嬉しいです」
「ありがとう。リアちゃんに早速連絡しておくわね」
「お願いします」
一直シフトはやっぱり辛い。三時間休憩があるとは言え、タイミングもあるから絶対の保証はないし。
閉店の少し前に省吾さんが来た。店内にお客さんは省吾さんだけで、店長は行っておいでって言ってくれた。
「東雲が?」
「会社とご自宅に買いに来て下さったの」
「そうか、気に入ったようだな」
「会社の大量注文も下さる予定なの♪省吾さんのとこも受けたし…ボーナスボーナスっ♪」
「木下より販売成績がいいんだってな、呉羽は」
省吾さんの言葉に作業してた店長の動きがピタリと止まる。
「…巽産業、及川商事…そのうちKAIコーポレーションか!?大企業を顧客に持ったスタッフなんて系列店どこ探してもいねぇっつの!今期の表彰モンだ」
「うちが何か?」
聞き慣れない声に、誰もが振り返る。
「甲斐社長…」
「いらっしゃいませ」
「先日は妻が世話になった」
「とんでもありません。お子様も可愛かったですし、お話も楽しかったです」
「あ、はい。一週間前にこちらにご記入頂いてファックス下されば、宅配も可能です」
注文用紙を手渡すとそれに目を落としてくれる。
「試飲用の豆も用意がありますので、一通りお付けしておきますね」
「ありがとう。会議のデリバリーもあるのね」
「はい。そちらは三時間前には連絡下さればご用意してお届けに上がれます。及川商事様でしたら車で十分くらいですから、ご希望でしたら器具とスタッフが伺ってその場でご用意も出来ますが、その場合はスタッフの絡みがございますので一週間頂戴しています」
「それもいいわね。一度検討するわ」
クリアファイルに資料をしまいながら、東雲さんが笑う。
「少しお話出来る?」
そう誘われて、バイトの子に声をかけた。お昼も過ぎてお客さんも少ない時間だったから、私は注文された一式を用意してから、ソイラテを作って東雲さんとテーブルにつく。
「ごめんなさいね、仕事中に」
「いえ、今日は開店から閉店までの特殊シフトなので、三時間は休憩時間がありますから」
「大変ね」
「楽しいです」
「そう…いい事だわ。それでわざわざ時間をもらったのはお願いがあって」
東雲さんは穏やかな笑顔で話を続ける。
「リアちゃんが…KAIコーポレーションの甲斐社長の奥様なんだけど…双子のお母さん」
「あ、はい。わかります」
「あの子がまた相模さんに会いたいって」
「私に…ですか?」
「年近い女の子の友達が周りにいないのよ。甲斐社長の妻ってだけで避けられがちでね…事件の事は知ってる?」
「はい…すごくニュースになりましたよね」
加害者の会社の社長さんと被害者の娘さん。普通なら二度と会いたくなんてないだろう関係が、結婚しちゃった…なんて、何だがドラマや映画の話みたいに思えたんだよね。
「そのせいか、元々なのか人見知りもあるんだけど、パーティーで喋ってくれたのは相模さんだけで、もっと話したかったって」
「そうなんですか…」
「私は姉みたいなものだから、友達って感じではないし。今度連れて来るから、シフト教えてくれない?」
「はい、わかりました」
バックのロッカーから携帯と手帳を持ち出すと、テーブルに戻る。
「明日から五日は連勤で、二時からクローズまでです」
「じゃあこの土曜はお休み?」
「はい」
東雲さんは赤いヴィトンのエピの手帳を広げて、メモをとった。
メアドと携番も東雲さんと交換する。
「私から教えてもいいの?」
「はい。お願いします」
「…迷惑だったら正直に言って?」
「そんな…私……」
私は東雲さんに郷里の話をした。
小中と分校で全学年が一つの教室で授業を受けるような、両手で数えられる人数しかいなかった。高校は片道二時間の通学で地元のローカル線から何度も乗り換えて通ったし、年の近い友達だってみんな今は都会に出てしまって連絡は付かない。過疎化は酷いけど湯治場としては比較的有名…空き家が多くて管理もされてない。
「そんなですから、私も嬉しいです」
「ありがとう。リアちゃんに早速連絡しておくわね」
「お願いします」
一直シフトはやっぱり辛い。三時間休憩があるとは言え、タイミングもあるから絶対の保証はないし。
閉店の少し前に省吾さんが来た。店内にお客さんは省吾さんだけで、店長は行っておいでって言ってくれた。
「東雲が?」
「会社とご自宅に買いに来て下さったの」
「そうか、気に入ったようだな」
「会社の大量注文も下さる予定なの♪省吾さんのとこも受けたし…ボーナスボーナスっ♪」
「木下より販売成績がいいんだってな、呉羽は」
省吾さんの言葉に作業してた店長の動きがピタリと止まる。
「…巽産業、及川商事…そのうちKAIコーポレーションか!?大企業を顧客に持ったスタッフなんて系列店どこ探してもいねぇっつの!今期の表彰モンだ」
「うちが何か?」
聞き慣れない声に、誰もが振り返る。
「甲斐社長…」
「いらっしゃいませ」
「先日は妻が世話になった」
「とんでもありません。お子様も可愛かったですし、お話も楽しかったです」