Love at first sight.
お袋は呉羽を気に入ったらしい。
「じゃあそこで省吾とは知り合ったの?」
「俺が声を掛けた」
「今度お店に伺ってもいいかしら?一度行ってみたいと思っていたのよ」
「是非いらして下さい。今は期間限定のベーグルでしたり、クレームブリュレもありますから」
呉羽の緊張が一気に溶ける…あの仕事に誇りを持っているからだ。
「あら、是非とも伺いたいわ。場所を教えてくださる?」
「はい……こちらに」
一定を満たした社員のみが持てるいわゆる名刺…受け取ったお袋は裏に載せられた地図を確認した。
「こんな近くにあるのね…こういうところは初めてだけど大丈夫かしら?」
「あらかじめ仰って下さればご案内します」
「呉羽さんがいてくれるなら安心ね。早速、明日にでもお友達と伺おうかしら」
「はい、明日は朝七時からおりますのでお待ちしております。お時間と人数がおわかりでしたら、ソファ席をお取りしておきます」
「じゃあ二時に六名で…」
「畏まりました」
「お前には勿体ないな、省吾。あちら様にはご挨拶したのか?」
「ここに来る前に簡単に会ってきた。新居が落ち着いたら、泊まりで行く話もした」
「抜かりないな」
「当たり前だ…妻の実家だからな」
話だけして、お袋に泊まれだの食事だけでもと引き留められたが、呉羽の両親が先だと諭して帰る事にした。つまらなさそうにしたお袋だったが、明日の事を呉羽に言われて渋々諦めた。
「相当気に入られたな」
「反対されたり、嫌われなくてよかったぁ…省吾さんもうちのお父さんに気に入られてたよ」
「飲み交わす約束もしたしな」
互いの両親に認められ、忙しい一日だったが俺も呉羽も満ち足りた時間を過ごす事が出来た。
帰ってからは二日後に迫る退去確認の為の片付けをする。新居には漸く家具が揃ったところで、まだ暮らすに十分ではない為、三日前からインペリアルのジュニアスイートに泊まっている。勿論、呉羽と初めて結ばれた部屋だ。
今、呉羽の部屋には何も残っていない。元々家具はシングルベッドにカラーボックスが二つ、パソコンと専用デスクにプリンタがあるだけだ。クローゼットがついた部屋だった事、居着いて日が浅かった事が手伝って、必要なら後々揃えるつもりだったらしい。
呉羽のアパートの部屋は、俺たちの寝室の奥に作っておいた一間にそのまま再現されている。ここは元々そうするつもりで設計に入れていた。
「ここも年間で貸し切るか…」
「ダメダメっ!ジュニアスイートだよ!?」
「初めて呉羽を抱いた部屋だ」
「っ~」
「他の誰かを泊めるには惜しい」
「勿体ないよっ」
「そうだな…やはり貸し切るか…」
「そっ…そう言う意味じゃなくてっ」
「わかってるさ」
「もうっ」
「呉羽」
湯上がりの呉羽には俺の発言を突飛だと取ったのかもしれないが、もし呉羽が賛同すれば一生貸し切る事にしていただろうな。俺には甘くも苦くも思い出深い場所だ。
呉羽と行った場所や過ごした空間は、俺になかった執着を生んだ。本当なら初めて呉羽が俺に手料理を振る舞ってくれたあのマンションも、残して置きたい気になったが、いい場所ではない…寧ろ呉羽を傷付けた場所だ。俺が忘れずにいればいい…その自信もある。
日付すら覚えている。
「呉羽」
ベッドサイドに腰掛けて、明日の用意を終えた呉羽を招き寄せる。膝に抱え上げれば、乾かした髪からは呉羽愛用の香り。驚いた呉羽が首に縋り付いた。
「やけに積極的だな」
「ち…違っ」
「俺は構わない…毎晩でもこうしていたい」
「っ」
「出来れば紳士な男でいたいが…どうも呉羽の香りは俺を簡単にただの雄に変える何かがあるようだ」
「ないっ…そんなのわかんないっ」
「俺にはわかる…花の蜜に誘われるように……」
額、鼻先、唇に順々にキスしながら呉羽のバスローブの紐を解く。
「っあ……」
バスローブを合わせようとする手首を掴む。
「じゃあそこで省吾とは知り合ったの?」
「俺が声を掛けた」
「今度お店に伺ってもいいかしら?一度行ってみたいと思っていたのよ」
「是非いらして下さい。今は期間限定のベーグルでしたり、クレームブリュレもありますから」
呉羽の緊張が一気に溶ける…あの仕事に誇りを持っているからだ。
「あら、是非とも伺いたいわ。場所を教えてくださる?」
「はい……こちらに」
一定を満たした社員のみが持てるいわゆる名刺…受け取ったお袋は裏に載せられた地図を確認した。
「こんな近くにあるのね…こういうところは初めてだけど大丈夫かしら?」
「あらかじめ仰って下さればご案内します」
「呉羽さんがいてくれるなら安心ね。早速、明日にでもお友達と伺おうかしら」
「はい、明日は朝七時からおりますのでお待ちしております。お時間と人数がおわかりでしたら、ソファ席をお取りしておきます」
「じゃあ二時に六名で…」
「畏まりました」
「お前には勿体ないな、省吾。あちら様にはご挨拶したのか?」
「ここに来る前に簡単に会ってきた。新居が落ち着いたら、泊まりで行く話もした」
「抜かりないな」
「当たり前だ…妻の実家だからな」
話だけして、お袋に泊まれだの食事だけでもと引き留められたが、呉羽の両親が先だと諭して帰る事にした。つまらなさそうにしたお袋だったが、明日の事を呉羽に言われて渋々諦めた。
「相当気に入られたな」
「反対されたり、嫌われなくてよかったぁ…省吾さんもうちのお父さんに気に入られてたよ」
「飲み交わす約束もしたしな」
互いの両親に認められ、忙しい一日だったが俺も呉羽も満ち足りた時間を過ごす事が出来た。
帰ってからは二日後に迫る退去確認の為の片付けをする。新居には漸く家具が揃ったところで、まだ暮らすに十分ではない為、三日前からインペリアルのジュニアスイートに泊まっている。勿論、呉羽と初めて結ばれた部屋だ。
今、呉羽の部屋には何も残っていない。元々家具はシングルベッドにカラーボックスが二つ、パソコンと専用デスクにプリンタがあるだけだ。クローゼットがついた部屋だった事、居着いて日が浅かった事が手伝って、必要なら後々揃えるつもりだったらしい。
呉羽のアパートの部屋は、俺たちの寝室の奥に作っておいた一間にそのまま再現されている。ここは元々そうするつもりで設計に入れていた。
「ここも年間で貸し切るか…」
「ダメダメっ!ジュニアスイートだよ!?」
「初めて呉羽を抱いた部屋だ」
「っ~」
「他の誰かを泊めるには惜しい」
「勿体ないよっ」
「そうだな…やはり貸し切るか…」
「そっ…そう言う意味じゃなくてっ」
「わかってるさ」
「もうっ」
「呉羽」
湯上がりの呉羽には俺の発言を突飛だと取ったのかもしれないが、もし呉羽が賛同すれば一生貸し切る事にしていただろうな。俺には甘くも苦くも思い出深い場所だ。
呉羽と行った場所や過ごした空間は、俺になかった執着を生んだ。本当なら初めて呉羽が俺に手料理を振る舞ってくれたあのマンションも、残して置きたい気になったが、いい場所ではない…寧ろ呉羽を傷付けた場所だ。俺が忘れずにいればいい…その自信もある。
日付すら覚えている。
「呉羽」
ベッドサイドに腰掛けて、明日の用意を終えた呉羽を招き寄せる。膝に抱え上げれば、乾かした髪からは呉羽愛用の香り。驚いた呉羽が首に縋り付いた。
「やけに積極的だな」
「ち…違っ」
「俺は構わない…毎晩でもこうしていたい」
「っ」
「出来れば紳士な男でいたいが…どうも呉羽の香りは俺を簡単にただの雄に変える何かがあるようだ」
「ないっ…そんなのわかんないっ」
「俺にはわかる…花の蜜に誘われるように……」
額、鼻先、唇に順々にキスしながら呉羽のバスローブの紐を解く。
「っあ……」
バスローブを合わせようとする手首を掴む。