王子様はおとといいらしてくださいませ


「からかってるの?」
「大真面目だよ」
「なんで今まで黙ってたのよ」
「いやー、言い出せなくて」


 どこか穴が開いて空気が漏れてるんじゃないかと思える、ぽや〜んとしたこの男が王子?

 確かに素材は悪くないのよ。金髪碧眼、シャープなあごのライン、スラリと長い足に、しなやかな手指。
 だけど中身が、惚れた欲目を上乗せしても残念なのよ。

 どこかズレてるのは、外国人だからだと思っていた。彼は隣国クランベールから、勉強がてら働きに来ていると私を謀(たばか)っていたのだ。

 だって! こんなぽややんとした緊張感も威厳もない男が王子だなんて、直接言われた今でさえ信じられない。

 まぁ、ぽややんとしてるからこそ、これまで一度もケンカした事ないし。穏和で優しくて、それが彼のいいところだとは思うけど。

 でもやっぱり、このぽややん男が王子だなんて!

 あまりに縁がなさ過ぎて王子様の顔なんて覚えてないけど、こんなぽややんとした顔はいなかったと思う。たぶん。

 いやいや、もしかして王子とはいえ、王位継承権なんかないに等しい末っ子かもしれない。王子様が何人いたかも覚えてないけど、何人かいたはず。

 末っ子だから自由に王宮の外をうろついて、ぽややんとしてるんだ。そうに違いない。勝手に結論づけたものの、恐る恐る尋ねてみる。


「あなたのお兄さんって何人いたっけ?」
「弟と妹はいるけど兄はいないよ。僕は長子だから」


 目の前が真っ暗になった気がした。という事は……。


「太子殿下!?」


 再びガタリと大きな音を立てて立ち上がった私に、店中の視線が集まった。
 彼はまたしてもオロオロと私をなだめる。


「だから声が大きいって」


 終わった。この国終わった。こんなぽややんとした男が次期国王とは。冗談にしても笑えない。

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