夕凪コンチェルト
プレリュード
 

 誰もいない海辺は、波の音しかしなかった。

 どうせ誰もいないのだから「バカヤロー!」って叫んだっていいのかもしれない。ジョークなのではない。実際そんな気分なのだ。

 が、私はそれをしなかった。最早、そんな気力でさえ消え失せるほど、私は疲れ果てていた。無理もない。昨晩から眠ってもないし、そう言えば食べ物も口にしてなかった。 

 力尽きたように砂浜に座り込む。一気に孤独が押し寄せてきた。碧い海原が、私の全てを連れ去っていけばいい。ふと、そんな無気力さに堕ちる。

 いやいや、自殺願望とか、そんなものではないのだ。ただ何もかもが面倒になっただけ。

 波瀾の夜が明けて、半ば自棄になった私は、「イラナイモノ」を片っ端からかき集めて、段ボールに詰め込んだ。少しだけスッキリもしたけど、心には空虚も残った。

 その頃には陽も高くなっていて。私は、陽の光に誘われる様に外へ赴き、近所の海辺までやってきたのだった。
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