ヴェルセント(1)
ポンポンと浮かぶ思い出はいつも綺麗でキラキラした物ばかりで。
そんな自分に自己嫌悪してしまう。
何も知らなかった頃の私達は喧嘩もしたけど仲が良くて、
同じ目的があって旅をした。
時の流れが長く感じた時の方が多かったけど、
思い返せばあっという間の旅だったと思う。
『さて、と。』
カゴを手に取りキッチンへと向かい、
茶色の大きな鍋に水を入れその中に摘んできた草花をどっさり入れた。
フワリ、人差し指を回せば左側にある暖炉から火が紫煙のように指に集まってきた。
それを鍋の下にある薪へと指を振れば紫煙のようにユラユラと火が薪へと移った。
暖炉のよう強火では困るので火の威力を下げる為に炎の幅を狭め、
私は明日の旅支度を開始した。
服も仕立てた新品のを1着だけ鞄に詰め、下着は3着程あれば足りる。
『んー!!
何か楽しみになってきた!!』
前とは違う1人旅で不安はあるけど、
久々の外界にソワソワ、ドキドキしてしまう。
楽しみで仕方ない私は完璧に浮かれている。
だって鼻歌が自然と出てくる。
クツクツと鍋が煮える音と共に草花の独特な青臭さが家中に広がってゆく。
『…ちょっと臭すぎるよ。』
その青臭さに思わず顔が歪んでしまう。
栄養ドリンクを作っているのだが、さすがにこの臭さのドリンクを飲むという行為は気が引ける。
て、いうか絶対飲みたくない!
『何か臭みと味の中和が出来るの探してこなきゃ…』
先程の楽しみどこへやら。
私のテンションは一気にガタ落ちし、渋々家を出ていった。
魔法を使えば直ぐに出来る栄養ドリンク。
だけど“特別な力”を持っていない人々はコレが当たり前なんだと思うと心底、尊敬してしまう。
てくてくと暫く歩いて気付いた私はもはや諦めモード突入。
だって私の周りには自然豊かな草花があったとしても、
綺麗なお水があったとしても、
それ意外なにも無いからだ。
『いやぁぁぁ!!!
もう面倒だよコレ!負けでも良い!なんなら逃げでも良い!
栄養ドリンクの作成投げ出しちゃおーじゃないの!!』
エッヘンッ!腰に手を当て開き直りという名の威張りをするも、誰も居ないこの森には直ぐに静けさが広がる。
唯一の音と言えば風の音と、それに靡く草花の掠れる音。
1人、勝手に冷静になり自分の今の言動を第三者的に見ればとてつも無く恥ずかしい。
そんな刹那…森の香りから微かな香りを運んだ風が私の鼻を掠める。
キュッ…━━━
胸が縮こまり、
だけど直ぐに膨張する。
この繰り返しをする私の胸は緊張なのか、それとも恐れているのか。
分からない感情に戸惑いながらも、香りがした方へとゆっくり、ゆっくりと近づいていった。