ヴェルセント(1)
ゆったりと。
彼は私が作った臭味汁の入った器を右手で払った。
「悪いけど俺ら知らない人の食いもんに口付けるほど馬鹿じゃねえよ?」
私だって嫌だと思った飲み物だけど。
とても腹立たしく、
とても悲しい言動に私はゆっくりと立ち上がり、
私より長身の彼の顔を睨み上げた。
『私の質問に答えろよ。』
ユルユルと私が彼の足元に絡み付かせたのは、
樹木で作った小屋の息吹。
力なく見えるツルがゆっくりと彼の足を絡む。
咄嗟に気付いた彼は動じること無く冷めた眼差しを私に向けてくる。
『まさかとは思うけど。』
小屋自体に念を入れ、私にもたらした1つの発想。
『アンタと彼が後継者?』
それなら“あの人達”と同じ髪と眼の色をもっていて当然だ。
「ん〜?
どうだかなあ。」
クツクツと人を嘲笑うような笑い方に私は少し彼を哀れんでしまった。
『そう。
見た限り貴方も魔法使いみたいね。』
彼に絡み付いたツルが膝下で止まったままだ。
何もモノが無いのに止められるとしたら、魔法使いしか居ない。
「わっ!シ、シリナス?!」
ピリついた空気を壊したのは少し高めの澄んだ声だった。
『起きたのね。』
フワリ、ベッドから身体を起こした赤髪の彼に微笑んだ。
回復が早くて良かった。
「…君は誰だい?」
赤髪の髪は訝しげな面持ちで見返してくる。
『…………?』
こてん、私は首を右に傾げてしまった。
なんで私が答える番になってるんだろう。
青髪の無言の圧力を頭上から感じるし、
その先にあるベッドに座る赤髪の彼には疑いの目を向けられる。
『なんて日だ!!』
今度こそ口に出して叫んでやった。
『私のテリトリーに勝手に入り込んどいて、
アンタらは何好き勝手言ってるのよ!!』
いい加減にして!と怒鳴り付け、私は明日の旅支度を始めた。
それはもう歪んだ性格の2人の男への苛立ちで、私の支度する手元が荒くなる。
『大体ね!
ここは私が造り上げた世界みたいなもんなのよ!!』
しかも魔法使いなんて例外無くこの世界で私を入れて3から5人しか居ない。
それに彼等の髪色は間違いなく受け継がれた者の証しだ。
何故、彼等が後継者なのかを口にしないか分からないが、
そんな単純な嘘をつかれてる私は一体、何なんだ。
何かに怯え、
不信感丸出しに毛並みを逆立たせる。
それは彼等の私を拒絶するサインのようだ。