ヴェルセント(1)
ここでの暮らしも残り僅か。
顔を再び戻せば歪んだ性格の2人の髪と眼に視線がゆく。
『眠り過ぎちゃったかな』
フワリ、懐かしさと共に微笑んだ私自身の顔は見なくても分かる。
とても穏やかに、
とても寂しげだったと。
『色だけはソックリなんだけどね〜。』
フッと鼻で笑って外へと足を向ける。
『ざーんねん。』
2人を流し目でチラリ、見ては直ぐさま前へと視線を戻した。
夕暮れの光りは真上にあった日の光りよりも柔らかくて。
時の流れは残酷なほど早くて、それでもこの空の柔らかさは胸を暖かくする。
姿形が変わろうとも“あの人達”の中身は変わらないでいて欲しいと心底、願う。
「おーいお嬢ちゃ〜ん」
私の横に腰を下ろしたの青髪の彼だった。
『ん?』
「シリナス」
『…え、なに?』
コイツ急にどうした?!
私の横に座りだすし、
しかもシリナスって何の単語だよ。
「呼び名だよ。
オメエが聞いたんじゃねえの?」
私を見上げた青髪の彼、シリナスは深海の眼を真っ直ぐ私に向ける。
「オメエの眼も随分と珍しーんじゃねえの?」
そう言ったシリナスの眉間には何故かシワが寄っている。
そりゃそうだ。
私だって彼等と同じ“産み落とされた”ものだから。
だけど違うのは“特別な力”の種類と“自分の役目”。
『私の髪も眼もアンタらと同じような意味をもつの。』
彼の真っ直ぐな眼から逃れるように自分から視線をゆっくり外す。
『そう、ね。』
なんて説明したら分かりやすいだろう、と考える。
『アンタらが“視える”なら私は“知っている”が一番、しっくりくるかな。』
「……知ってんじゃねえか俺らのこと」
知ってる?
この子ったら馬鹿言うんじゃないよ。
私が知ってるのはアンタらみたいな歪んだ性格の奴等じゃなく、
全てを共にした“あの人達”だ。
『あはは!面白いこと言うね!』
そんな“あの人達”と一緒にしてるような口振りにケラケラ軽い笑い声をあげてしまった。
『シリナスだっけ?』
彼の方へと視線を下げれば、
私の顔を訝しげな顔で見上げている。
『産み落とされた“自分の役目”さえまだ知らないでしょ?』
「アヒャヒャ!!
お嬢ちゃーんそれぐらい知ってるってー。」
次に笑い声を上げたのはシリナス。
“自分の役目”を知っているシリナスなら、
それ以上何も言うことはないとただ微笑み返した。