ヴェルセント(1)
フワリ、淡い黄色の光が一筋、私とシリナスの間を優雅に通り抜けた。
「お嬢ちゃん。」
少し掠れたシリナスの声色は艶っぽく、胸をざわつかせる。
寧ろ自分を呼ばれたことに恥ずかしさまで何故か感じた私は、
わざとらしく訝しげに首を傾げた。
『アンタより歳上なんだからお姉さまって呼んでよ。』
「ん?!」
さっきの艶っぽさは何処へ。
素っ頓狂な声に私はケタケタと笑ってしまった。
しかも何だその面は!
ポカーンと口を開けて、
私を見るシリナスの顔は間違いなくアホ面。
いや、もうシリナス。
『私をいくつだと思ってたのよ?』
「え、15ぐれえじゃねえの?」
『ぶふっ!』
私が15歳ぐらいだなんて何年昔の話よ。
やっぱり笑いが止まらない。
でも見た目が若いなら損は無いし、嬉しいことだ。
『シリナス有り難う。
お嬢ちゃんでも悪くないわ!』
ああ、もう。
笑いを押さえようとするもクスクスと小さな笑い声が出てしまう。
『それよ、り』
笑いながら言葉を言うのは難しく、言葉と言葉の間が途切れてしまった。
そんな私をシリナスはヘラリ、笑って
「オメエの笑いのツボが分からねえよ」
と、失笑。
シリナスと私の温度差は激しく違うだろう。
『シリナスはいくつなの?』
ハアハアと深呼吸しながら笑いをどうにか押さえ込めた。
「んあ?」
『歳よ歳!年齢』
ニイと笑えばシリナスはユルユルと口角を持ち上げ、
「17」
薄い唇でゆったりと動かした。
ああ。
この子は17歳にして、
こんな艶めかしさを何処で身に付けたのやら。
羨ましい反面、興味深く思えた。
『素敵な武器をお持ちなのね。』
こんな色気にあてられたら例外なく私だってそうだし、女の子は堪ったもんじゃない。
『変なドキドキでいっぱいいっぱいだよ。』
フニャリ、だらしなく笑った私はホント正直な顔をしていたと思う。
だってほら。
「……そんな露骨な顔されたらビビんじゃねえーか。」
困った様に微笑んではワシャワシャと私の頭を乱暴だが撫でてくれた。
染まりきらない紺色の空を背景に、鈴光虫が黄色の光を放つ。
木々の香りと共に風が運んだ香りは甘く、重ったるいシリナスの香水だった。