ヴェルセント(1)
外界との扉を開いたからといって深く、広い森の中ということには変わりはなく。
敢えて言うならば外界へ出れるようになったぐらいだ。
自らの漆黒の眼と髪はココから先、面倒になるのは前に経験済み。
『ちょっと待ってね。』
後に居るはずのシリナスに言葉だけを投げ掛け、
私はゆっくりと目を瞑る。
ブワッと少し強めの風に包まれ、腰まで伸びた私の髪は乱れ靡く。
グッと意識を集中させれば私を包んでいた風が突風へと変わり、周りの空気と馴染んでいった。
「へえ、随分と綺麗なブロンドになんのなあ。」
シリナスの言葉と共にゆっくりと目を開き、後ろへと振り返ってはパチパチと瞬きをしてしまった。
「僕らもやった方が良いかな?」
可愛らしい童顔のギランダが何故かシリナスの隣に立っていた。
それも平然に。
「えっと、お姉さん?でしたっけ?」
サラリ、首を傾げたギランダの赤髪が肩から落ちる。
この子も痛み知らずな髪だと思った。
『お姉さんやらお嬢ちゃんやら分からないけど、どうぞお好きに。』
どうでも良いのが口調にも現れてしまって投げやりな言い方になってしまった。
『それよりギランダ立って平気なの?』
「うん!僕はお姉さんとシリナスに精気をもらったから随分良くなったよ!」
これまた吃驚。
シリナスとは真逆と言って良いほど純粋無垢なイメージを受ける言動のギランダ。
整い過ぎたシリナスと顔の造りまで違う。
赤みのある唇は少しふっくらしていて、目尻は下がり気味の若干タレ目。
肌は真っ白で見たこと無いが体つきやら何やら華奢に見える。
『これじゃ愛の逃避行も本当みたいね。』
眉を下げ、
シリナスへと視線を向ければヘラっと軽い笑みを返してくれた。
だってギランダってば服を変えたら女の子に見られるに決ま、て…る…?
『うわあああ!!』
「お嬢ちゃーん今度は何だよ〜。」
呆れたように目元を片手で覆い、肩を落としたシリナスだが、
どうしてそんなに普通にしてられるのよ!!
ギランダの方も気になり、視線を横滑りさせるもキョトン顔。
何も分かっちゃいない。
『私こんなんで厄介事に巻き込まれたくないんだけど!』