ヴェルセント(1)
傷を負った2人と空間移動をする為には何かと不都合な状況。
自分だけの魔力でどうにか切り抜けられる力を私はまだ目覚めさせていない。
『仕方ないわね。』
だからといって2人も又、私と同じ目覚めさせていないのだから、ただの器にしかすぎない。
ここは歳上である私が腹をくくるしかない。
そう思い、私は全神経を空間移動へと集中させる。
2人は傷だらけ。
ここを切り抜けられても私の魔力は底がつき、暫し眠ることになってしまう。
それが吉とでるか凶とでるか…。
みるみる染め上げた髪色が元の黒髪へと戻り、
ユラユラと真っ暗な空間で優雅に靡き始める。
微かな外の香りに気付いた私はここぞとばかりに力を振り絞った。
『クッ…、』
全身に痺れにも似た痛みを感じつつ、
痛みで集中力と意識が飛びそうになるを堪えるのに下唇を思いっきり噛み締めた。
――――――……それは一瞬の出来事だった。
微かな外の香りがした場所には亀裂が入り、
そこから真っ暗な空間は一瞬にして粉々に空間の外へと吹き飛ばされた。
紫色の光が私と傷を追った2人を包み込んでは、
目覚めさせていない器だけの私だが、一時的とはいえ無理矢理な解放で背中が燃えるように熱くなる。
『ア゙ァァーーーッ!!!』
猛獣のような叫び声と共に背中が切り裂かれる。
肩の切り裂かれた箇所は酷く爛れてゆき……――――――熱過ぎて痒さまで感じる。
グチャグチャな皮膚から引きずり出したソレは微風が当たるだけでも……――――――痺れを通り越して激痛。
酸欠状態に近付く状況に上手く整わない呼吸は脳さえもグラつかせ……――――――喉の渇きさえ感じさせ、苦しい。
私の紫が傷だらけの彼等だけを綺麗に包み、
私は彼等の手を取り、
勢いよく外の香りが強い方へと飛び出した。
――――――……酷くもげた羽根は骨と皮のみの醜い姿形。
『馬っ鹿野郎ーーー!!!』
その叫びと共に激痛と苦しみから解放された。
その刹那、エクスタシーにも似た感覚と共に意識を手放した。