ヴェルセント(1)
真っ暗な世界にポツリ、佇むというより浮いている私。
先程の場所と同じような空間だが、息苦しさとかは感じない。
それは無理矢理造り上げられた空間ではないことを意味し、
魔法使いの誰かが造った空間ということをボーっとした頭で理解した。
無重力なこの真っ暗な空間でやっぱり私はふわふわと浮いている。
暗いのか、
黒いのか、
どちらにせよ漆黒の世界には代わりない。
「久し振り。」
『っ?!』
フワリ、私の視界に入り込んだ赤はあの香りと共に現れた。
シワシワな顔だが微笑んだ彼の目元は綺麗に三日月。
癖の無い腰まで伸びた赤髪は漆黒の世界にユラユラと揺らす。
「君は変わらない、ね。」
少し寂しそうに私を見つめる彼に私自身を悲しく思った。
『ユーダ…』
「そんな顔をしないで?」
赤髪の彼の名はユーダ。
彼はヴェルギニーの現国王だ。
優しい声色に穏やかな雰囲気をもつユーダは昔より老けたけど、やっぱり彼自身は変わらない。
『もう嫌だよ。』
「そんなこと言わないで?」
困ったように笑っては私の頭をゆっくりと撫でてくれたユーダ。
嫌なんて言っちゃ駄目な事ぐらい分かってる。
分かってるけど、やっぱり言いたくなっちゃう。
ユーダを真っ直ぐ見れなくて、私は俯いてしまった。
だけど私の頭を撫でてくれていたユーダの手は徐々に下がってくる。
私の黒髪を指に絡ませ。
優しく、まるで撫でるように梳かしてゆく。
「早く君に逢いたい。」
『…ホント?』
「うん、本当だよ。」
私だって凄く逢いたい。
逢いたいけど、
次に会った時は…―――。
なのに早くなんてユーダは言う。残酷なまでに優しいユーダのその言葉と柔らかな口調は私の胸には痛すぎる。
「きっと、彼はもっと逢いたがってる。」
俯いていた私の顔はユーダの言葉に驚き、上がってしまった。
「ふふ、君はいつだって素直なままでいて良いんだよ。」
本当この人には敵わない。