ヴェルセント(1)
こんなにも穏やかなユーダ。
だけど彼の生まれもった赤い眼光は鋭く私を見つめる。
『ユーダ…』
名前の後に続く言葉が見つからない。
眉尻は下がり、
今にでも溢れ落ちそうになる雫を堪えるように、
自分の眉間にグッと深いシワを刻む。
「相変わらず綺麗だね。」
そう言って私の髪先にそっとキスを落としたユーダの長い睫毛(マツゲ)が微かに揺れる。
相変わらず真っ白なその肌は今でも健在。
だけどやはり遠き年月には勝てず所々にはシワが見える。
まるで水中に居るように互いの体はこの漆黒の世界にユラユラ揺られる。
「……………。」
私と視線を合わせた赤い眼は何かを訴えるような眼力で自分の胸をグッと掴む。
「うん。」
『…はい?』
急に何の頷きですか。
先程まで力ませていた私の顔の筋肉はキョトンとしてしまったせいで、
私の目頭から温かな雫がホロリ、溢れてはフワリ、漆黒の世界へと粒となって浮かんでは漂う。
「ほら泣けた。」
『…ユーダ意地悪。』
「言ったそばから素直になれなかったのは君だよ?」
そうだけど、そうだけどこんな泣かせ方は反則だと思う。
「君は何も気負わずにコトを進めれば良いんだ。」
サラサラと靡く長い赤髪はこの漆黒の世界ではヤケに目立つ。
「ただ…」
上へと視線を向け、
何処か遠くを見つめ出したユーダ。
この漆黒の世界に何かあるワケ無いから、きっと何かをその赤い眼に映しているのだろう。
「サクッとやっちゃって。」
『………。』
その視線をそのまま私へと流し、
あの柔らかで穏やかな微笑みを向けてきた。
だけどその声色とは正反対の言葉を吐いたユーダに私の背筋がゾクッとした。
「ふふ、僕の甥を宜しくね。」
『宜しくって…』
「あの子はまだ知らないから。」
『知らないって何を?』
私の言葉にユーダはただ微笑む。
ゆったりと瞬きした様は相変わらず気品がある。
それはもう本当、ただ私に何かを託すように。
綺麗に微笑んだ。