ヴェルセント(1)
「僕らは“自分の役目”を果たした。」
そう言って私に力強い眼差を向けてくる。
誇らしげに、
そして自信に満ちた笑みを浮かべるユーダ。
「君はこれからが本番なんだよ。」
本番ってどうゆうこと…?
真剣な面持ちへとかわったユーダだが、
この漆黒の世界にユラユラ揺られている。
それがまるで不安に揺られている様にも思えて私には少し恐く感じた。
「甥たちと君はこれからが本番。」
『ちょっと、本番って…なによ?』
不安に揺られているのはユーダではなく、微かに震えた声を出してしまった私だ。
「僕らは本番に向けて土台を造る。それが“本当の自分の役目”だったんだ。」
『土台…』
「そう土台。」
ユーダたちが本番に向けての土台ってどうゆうことか私にはサッパリ分からない。
そもそも
『本番ってなに?』
首を右に傾げ、訝しげな顔でユーダを問い詰めるように見つめる。
「そうだね…」
ふと遠くを見つめだしたユーダは傍にいるようで遠い。
いつもいつも。
そしていつまでも。
何を想い、
何を考え、
何をしたいのか。
彼の真意は私には分からない。
「これから暗黒期に入る。」
『…………。』
暗黒期?
なんだその明白(あからさま)なネーミングは。
「もう直ぐだから。」
まるで私では無く、
この漆黒の世界に居ない者に言っているよう。
「君の“自分の役目”はその暗黒期が本当の意味なんだよ。」
ユーダは何かを知っている。
「そして僕らの甥の力量を上げなければならない。」
フワリ、私に微笑んだユーダ。
「それは僕らの甥の為、この大陸の為。」
そんなこと分かってるわよ。
いつだって私たち“自分の役目”をもって産み落とされた者は逃げを許さない。
私たちは最期まで…戦わなきゃならい。
「…なんてね。」
ふふ、と楽しそうに笑いだしたユーダ。
さっきのシリアス何処へ。
打って変わってユーダはクスクスと笑い出す。
こんな漆黒の世界にいる老いぼれたユーダだが、
周りがやんわりと明るく光って見えた。