ヴェルセント(1)
しかし“嫌な予感”は俺にもあった。
あったというより“視た”と言った方が正しいのかもしれない。
生け簀かねえギランダの国である“ヴェルギニー国”。
そして、もう1つの国“アルセント”。
両国の王には人々と明らかに“違う能力”を持ち、この世に産み落とされる。
そして、その“違う能力”は王家の血を引き継ぐ者が必ずしも持ち合わせるものではない。
「やっぱり。シリナスも視たんだね。」
今の王との世代交代を要する、つまり命の灯火が消えかける時。
その“違う能力”を持った者が産み落とされる。
先程の生け簀かない柔らかな笑みを打ち消し、
真顔で俺を見据えるギランダ。
―――…そして
『ああ。ハッキリと“視た”ぜ。』
その“違う能力”を持った者が王家の後継者。
「シリナス。」
不安げに揺れた赤い瞳。
その不安に煽られるようにギランダとは正反対の俺の瞳も揺れる。
『分かってんだけどよ。
だけどよ、俺だって肝心なもんが分かんねえんだよ。』
肩の力がスッと抜ける。
“アルセント”の後継者である俺だけが“視た”ものじゃなく、
“ヴェルギニー”の後継者ギランダまでもが“視た”ものは、
何となくだが、
一致している気がした。
それが何となく、
何となくだが肩の荷が軽くなったようにも思えたんだ。
「同じものを“視た”みたいで良かった。」
困ったように、
けど確かに柔らかな笑みを浮かべた今のギランダが本当にホッと一安心しているように見えた。
『でもよー』
クッキーに再び手を伸ばし、
『だからって、こんな感じで会う必要って無かったんじゃねーの?』
苦笑いを溢しつつクッキーを口へ運ぶ。
焼き菓子だからか口内が少しパサついてきた。
「あのね、勘違いしないでくれないかな?」
『ん〜?』
何故かギランダまで苦笑いで返してきた。
「シリナスの話を何となくまとめると、
まるで僕が君をココに呼び出したみたいになってるけどさ」
『ちげえーの?』
難しい顔をしてティーカップに口をつけたギランダを目の前に、
俺はギランダの言葉に疑いを持ってしまった。
「僕からしたらシリナスからの招待だと思ったんだ。」
―――…イミワカンネエヨ。