ヴェルセント(1)
背筋がゾッとしたと同時に俺は何故か真っ白なテーブル上に用意されたクッキーと紅茶を見下ろした。
ギランダじゃなきゃ“誰が”これを用意させたんだ?
俺が来たときには既にギランダが椅子に座り、
優雅に紅茶をたしなんでいた。
口にしたクッキーは確かに温かく焼きたての香ばしさが広がった。
紅茶だって熱くも、冷たくもなく適温だった。
「シリナスじゃないなら…“誰が”このお茶会を主催した、の?」
ゴクリ、生唾を呑み込んだギランダの言葉に今回ばかしは頷くことしか出来なかった。
『オメエが来たときには用意されてたのか?』
否定して欲しい、そんな気持ちをギランダに託すも虚しく。
「うん。
用意だけされてて誰も居なかった。」
『…………。』
言葉を失うしか無かった。
なら。
なら、招待状はどうなんだよ。
俺は右ポケットに詰め込んでいた招待状を慌てて取りだし、
封に押された押し印と色を確かめた。
『おーいおいおい!
ちょーっとギランダさん?
悪い冗談はや…―――』
ヘラヘラと笑っても半信半疑な目をギランダへ再び戻すも、
続きの言葉を紡ぐことしか出来なかった。
「それならシリナス。
僕は君にその言葉をソックリ返しても良いかい?」
ハッキリと俺の目に映るは、青いロウに“アルセント”の王家の紋がクッキリ押されている招待状。
『なんだってんだ。』
「僕だって分からないよ。」
明白になったのはお互いに呼ばれたと思っていた相手に呼ばれていなかったということだ。
それも“知らない誰か”が俺とギランダを引き合わせるキッカケとしてお茶会を開いたということ。
―――…何の為に?
そもそも招待状を俺は誰から受け取った?
『っ…―――?!』
声にならない叫びと共に息を呑んだ。
だって俺は誰からも“受け取って無い”。
気が付いたら勝手に招待状が有るのを俺が知っていて、
仕事をするガラステーブルの引き出しから勝手に招待状を出してたんだ。
“知らないハズの招待状”を何故か俺は知っていた。
まるで記憶を塗り替えられたような出来事に俺は自分を疑った。