ヴェルセント(1)
真暗な世界にポツリ、俺とギランダ2人ぼっち。
「気付くの遅くない?」
じっとりとした視線を向けてくるギランダはさて置き、
俺が見えてなくて、ギランダには見えていたらしい口調に引っ掛かりを感じ、
自らシェルターを消し去った。
「…気味が悪いね。」
ぐにゃり、視界が歪めば
感じたことのない圧迫感が俺を襲った。
『っ…━━━!!』
訳が分からねえ。
全くもって理解不能ってやつだ。
真っ暗な世界のごく一部に集まるように黒が歪んでいる。
一部の周りに赤と青がマーブル状に混ざり、
その一部の中央は紫に変色していた。
「ココは何処(ドコ)なんだ?」
俺もそれは疑問に思っている。
『何処って俺らがお茶すすってた場所に決まってんだろーよ』
だけど真実味を帯びた言葉なんてこんなことしか無かった。
「本当にいちいち勘に触る奴だよね。」
『そもそも、だけどよ?』
この現状を目の当たりにして、再び疑問が浮上しちまった。
『俺ってばココにどーやって来たか覚えてねえんだけど。』
「…は?」
俺の言葉に素っ頓狂な返答をしたギランダはコロコロと表情までもが変わって実に面白い。
『じゃあオメエはどうやって来たんだよ?』
ついさっき、こんな事になろうとも知らずに茶すすってた時までは“いつもと同じ”ようにココに来たと思っていた。
思っていたが、
いつ、ココに何で来たかは定かじゃねえ。
こんな俺やギランダでも一応は後継者だ。
一人でココまで来るなんて普段ならあり得ねえ話だし、
ましてや敵国の後継者と対1で会わせる訳がねえ。
近くに側近やらなんやら居て当たり前なのに、今回は“いつもと同じ”ではない。
むしろ例外としか言い様が無い。
「…ちゃんとは分からない。」
可愛いお顔だってえのに眉間にシワを寄せたギランダの返答に、
だよな、しか言葉が出てこなかった。
「取り敢えずココから早く出なきゃシンドイ」
ギュッと歯を噛み締め、
ギランダは身を纏う炎の威力を上げていった。
俺もギランダと同意見だ。
こんな訳の分からん圧迫感の中にいつまでも居たら、
俺の生死に関わってきちまう。
息苦しいこの空間はもはや危機感しか感じない。
「シリナス。
国に戻ったら追って手紙を送るよ。」
『ホントにオメエのかも分からねえ手紙をか?』
「手紙を返してくれ。」
焦りを帯びた声色のギランダにヘラリ、笑っては了解と答えた。
その瞬間、ギランダの炎は彼自身を燃えつかせるように威力が増し、
姿形が見えなくなってしまった。
俺もこうしてらんねえな、ボソリ呟き水の渦で自分を囲おうとした刹那。
ギランダの炎がふわり、柔らかく消えていった。
勿論そこにはギランダの姿はなく、
俺は無事抜け出したのだと判断し、
自分の渦に呑み込まれていった。
この時の俺とギランダは何1つ確認をしていなかった。
勝手な解釈のせいで俺ら2人はとんだ遠回りをするハメになるとは。
この時は互いに気付きもしなかったのだ。